間違いないか?
余輩らオロニル族は、太陽神アジムの子。
神の子とは、契約ごときで成れるものではない。
ただの旅人であれば剥げ、と命じた。
しかし、バルダム覇道を越え、
ゼラの戦士となったのであれば、話は違う……。
神に献身し、愛を受ける権利があるだろう。
それが満足のいくものであれば、余輩から与える愛について、
お前たちの望みを聞かないでもない。
それは父たる太陽神の威光を軽んじているのと同じ。
大罪人として裁くべきだが、一度は慈悲をかけよう。
一生涯、余輩の兄弟らに隷属し、
心身の一片も余すことなく、神の威光を知ることを許す。
お前たちがほしいそうだ。
ボラーク族の真逆……といってもわからないか。
ともかく引き取り手はある、安心するがいい。
不敬だ、二度はないようにしろ。
その覚悟があるなら、改めて問うことを許そう。
ブドゥガ族好みの、蛮勇な男よ。
……許す、それではしかと聞き、誓って奉れよ。
まあ、まずは働きを吟味すべきか。
余輩の望みを問うならば、しかと聞き、誓って奉れよ。
「終節の合戦」における勝利である。
合戦は、古代より続く、神聖にして厳格な儀。
神の子たるオロニル族であれ、
油断なく備えなければ、足元をすくわれる。
ゆえに捕虜どもよ、合戦の支度に貢献しろ。
そこに控える、お前たちを連行してきた男……
「バートゥ」の指示を仰ぐがいい。
ゆえに、献上された働きには、相応の慈愛を与えよう。
……さあ、働け。
その男に続き、お前が戻ってきたか。
なるほど、それはいい働きであったといえよう。
そして、働きに対等な恩寵を与えなければ、
神の子の度量も問われようというもの。
ゆえに、その問いには、無論であると答えよう。
ただし、今の働きでは到底足りないがな。
無知のまま帰るつもりはないということか。
余輩らの神話こそが真なる創世譚……
知って、その尊きを刻むがいい。
余輩が許したのだ、一族について存分に学ぶがいい。
余輩らを知り、その威光に畏れを抱いたか?
……フッ、ならばよい。
……見てのとおり、お前たち全員が、
最初に課した仕事を終え、何らかの貢献を果たした。
だが、放してやるには、まだ十全ではない。
もうひとつ……大きな仕事を与えるとしよう。
その身ぐるみを剥ぎ取るよりも、
よほど価値ある貢献だ。
だが、合戦は刻一刻と近づいている。
開戦までに無事モル族のもとへ帰りたければ、
もうひとつ大きな働きを捧げろ。
宿敵「ドタール族」を偵察するのだ。
残りの2人は、人質として、ここへ残れ。
万一、偵察に向かった者が逃走したり、
ドタール族に捕まって戻らなければ、
人質の2人を、命尽きるまで余輩らの隷属とする。
人選は、こちらで決める。
お前たちは、いずれもバルダム覇道を越えた戦士。
実力に大差がないならば、より手元に残したい者を、
余輩らが人質として選ぶのが道理だろう……!
これは、そもそも選択肢がないも同然だ。
お前が余輩のナーマかもしれないなどとは微塵も思わないが、
一族以外の男など、輪をかけて不要だからな。
しかし、もう片方は余輩が選ぶぞ。
余輩のナーマが、草原の民ではなかったという可能性も、
あるのではないか……?
余輩のナーマは、慈愛にあふれ、可憐で控えめ、
儚い朝焼けの雲がごとき乙女のはず。
呪いの石像すら躊躇なく破壊しそうだぞ。
容姿はともかく……余輩の戦士としての勘が、そう告げている。
バルダム覇道を易々と越えておいて、どの口が言う……。
►そうして差し上げようか
それだ、そういうところだ……。
まったく……。
一度家畜を世話した者ならば、妹たちも喜ぶ。
お前が、人質として残れ。
偵察に向かう者は、ここより南方にあるドタール族の拠点……
「ドタール・カー」の現状を調べろ。
有益な情報を持ちかえれば、全員まとめて解放してやろう。
……行け。
まさか、人選のことで機嫌を損ねているのか。
愚かな……早く南の「ドタール・カー」へ向かえ。
お前の方がそれに適任であると、余輩が選び、許したのだぞ。
しかし、いかなる者であれ、ゼラの戦士を侮るつもりもない。
お前の目と耳に、少しでも有益な情報を収めてくるのだ。
では、その目、その耳に納めたことを献上しろ。
まあ、ドタール族が画期的な策を用意するなどとは、
こちらもはなから思っていない。
通例どおりの戦法でくること……
また、事故で戦力が欠けたと知れたのは、そこそこの収穫だ。
戦場において、奴らのひとりは重みが違うからな……。
余輩の人生唯一の汚点、次に口にすれば兄弟とて命はないぞ。
だが、あれと遭遇してなお偵察を完遂したとあれば、
お前たちの功績に恩寵を与えるべきだろう。
……この者らを、解放する。
お前たちが、ただの弱者ではないことは十分に知れた。
お前たちは、栄えあるゼラの戦士として、
間もなくきたる「終節の合戦」に参加しろ。
そこで、必ずや余輩の前までたどりつき、
この草原の覇者がいかなる者か、身をもって知るのだ。
……誓えるな?
去れ、次は戦場でだ。
お前には、戦場で余輩とまみえることを許した……。
それは、今ここではないはずだ。
土を撒く者どもだ。
長兄マグナイ
その土地は、余輩に献上されるべきものだ。
約束どおり相まみえに参上したこと、褒めて遣わす。
その勇猛さに応え、余輩と為合うことを許そう。
だが……血に飢えたドタールの増援も来たようだ。
長兄マグナイ
我らが威光で圧倒せよ、蹂躙せよ!
長兄マグナイ
余輩の許しなく触れるな……!
殺し合いと言っただろう?
勝ち残った者こそが、それを得るにふさわしい!
長兄マグナイ
勝鬨を上げよ、兄弟たち!
長兄マグナイ
それ、地獄がはじまるぞ。
来るぞ、無粋な鉄の音だ。
草原の掟に従い、余輩らに命じることを許そう。
長兄マグナイ
不敬、不遜……余輩が禁じるッ!
口と態度ばかりが嵐のような呪師はともかく、
神の子を連れるのだ、お前たちの戦に敗北はなくなった。
それでもなお拝謁を許しているのだ、簡潔に要件を述べろ。
合戦の結果を認めてなお、
余輩らがアジム神の子であることは変わりない。
今は戦のあと、ここは敗軍の陣なのだぞ。
…………安心しろ。
奴に関しては、一命を取り留めた。
少し時間はかかろうが、いずれ歩けるようにもなるだろう。
それ以上は問うな、余計な気遣いこそ不敬だ。
余輩らの威光は、一度の敗北で衰えるものではない。
覇者はただ、鷹揚に前だけ見ていろ。
この玉座を差し出せというなら、それも致し方がないが。
お前たちが策と号令をよこせば、いつでも出よう。
儚い朝焼けの雲がごとき乙女……だと……?
それでいて戦える……完璧か……ッ!
お前が余輩のナーマか!? そうであろう!!
どうしてこうも、余輩のナーマだけ見つからない……!
余輩らは、お前たちが指揮をとることを、すでに許している。
……だが、あの女とは組ませてくれるなよ。
もしや、その薄汚い魚のなり損ないのような代物は、
余輩への献上品か?
久しぶりに顔を見せたと思えば、
余輩らオロニル族の祭について聞かせろとはな……。
だがよい、聞かせてやろう。
オロニル族において、もっとも重要な祭は「兄弟闘技」だ。
草原に伝わる格闘技「アジム・ブフ」によって、
強さを競い、一族内の序列を定めるというものでな。
これによりオロニル族は、太陽神に自らの精強さを示すのだ。
「終節の合戦」で勇を示したお前ならともかく、
魚のなり損ないのような代物には、マネすらできまい。
明けの玉座から嫌でも目につくもので、余輩の気分は悪い。
よくもまあ、ぬけぬけと姿を現したものだ。
よい、許す、受け取ろう。
オロニル族は、敬意を示す者に対しては寛容だ。
ナマズオの妙な祭に対しても、これ以上はとやかく言うまい。
少なくとも余輩らが次の合戦で、覇者に返り咲くまでは、な。
ともかく柿とやらは、
料理人たる末弟のエスゲンに渡しておくがよい。
今ではナマズオが、カールの流れで生まれたことを知っている。
ならば、ケナガウシと同様、太陽神が創られた恵みということ。
会話を交わすことすらできぬ、
野蛮なマタンガよりは、いくぶんかマシであろう。
これからも、草原の民として余輩らに敬意を示すがよい。
バルダムもかくやという武勇を示したかと思えば、
ナマズオどもとお祭り騒ぎとは……。
力をもって、余輩らの威光をあまねく知らしめるだけだ。
遺憾だ……はなはだ遺憾だ……。
余輩らの父、偉大なる太陽神アジムにかけて、殲滅せよ!
ここから先は、あの国の者が考え、造っていくものだろう。
オロニル族の在り方を、余所の者が侵せないようにな。
当然だろう、お前は終節の合戦の覇者なのだからな。
だが、次は余輩らが覇者の座に返り咲く。
先の合戦で負傷した弟妹たちも、調子を取り戻してきたことだ。
そこにいたバートゥも…………
……あれには、優秀な治療師である嫁がついているからな。
意地でも完治させられることだろう。
それは、とても……よいことだ。
余輩らの許しもなく、草原を焼くな……!
余輩の立つ場所こそが万事の表、引っ込むなど不可能だ!
ましてや、この草原の行く末を決める戦いが、
神の子たる余輩を差し置いて行われているなど、言語道断!
ナーマ神に連なるアウラ族は、みなオロニル族が庇護すべきもの……
ならば、お前たちの要求を判ずるべきは、その長兄たる余輩であろう。
ダイドゥクル、お前も出ろ。
余輩らの威光と猛威に震えながら、全力を見せてみろ!
長兄マグナイ
力を以て、己を貫いてみせるがよい!
長兄マグナイ
長兄マグナイ
長兄マグナイ
ならばよし、アジムの子たる所以を見せてくれる!
余輩に歯向かう愚かさを、噛みしめるがよい!
あがいても無駄だ……。
もはや、余輩の斧を打ち砕くことはかなわぬ!
長兄マグナイ
長兄マグナイ
貴様らの動き、見切れておらぬと思ったか!
まとめて、草原に伏すがよい!
長兄マグナイ
お前のように、短絡的な理由ではないが……
よかろう、認めよう。
勇と力により序列を定めるは、オロニル族の伝統でもある。
十分な結果が出たならば、認めよう。
余輩らの力、今ひとたび戦陣に加えるがよい。
そして、その癒やしの術は慈愛の心を秘めたる証……
昨今の実状を見るに、やはりありえない話ではないと思っている!
あの忌々しい女とともに、さっさと草原を去るが良い。
東方連合とやらの戦列に加わってもみせよう。
ドマでの戦いのようにな……。
この世界の覇者になろうと、猛威を振るっているそうだな。
草原の覇者たるオロニル族として、聞き捨てならん話だ。