えおろーぐ

おわっ、テメェ、ガイウス閣下をやった冒険者か！？
ついに俺っちの首を取りに来たってこ……あれ、違うの？

なんだ、ブレイゼン殿の依頼か……。
わざわざ悪ィな、手間かけちまって。
俺っちじゃ、どうにもできなくてさ。

こうみえても、俺っちは帝国軍に所属していた百人隊長でな。
アラギリに駐屯していた歩兵小隊の隊長をやってたんだ。
……おっと、俺っちを殺すのは、話を聞いた後にしてくれよ。

んで、同盟軍がやってくるのを見て、こりゃ敵わねえって、
なんとか話つけて、部下を逃がしてやってね。
後は、俺っちが解放軍に処刑されれば、丸く収まったんだが……。
ちょいと説明しづらい問題が起きて、死ねなくなった。
そうだな、見ることは信じること、なんて言うわけだし、
アラギリの人に、俺っちの名前を出して、話を聞いてみてくれよ。
みんなの話を聞けば、問題が何か、わかるはずさ。
回りくどくてすまねェが、よろしく頼むぜ。

アラギリのみんなから、俺っちの名前を出して話を聞いてみてくれ。
回りくどいと思うかもしれねェが、問題をわかってもらうには、
きっとこれが一番手っ取り早いはずだ。

お、戻ったか。
どうだ、問題が何かわかっただろ？
みんな、俺っちが死のうとするのを引き止めて、
解放軍にバレねえよう、匿ってくれてるんだよ。
……それも、何かあれば戦う覚悟すら固めてさ。
前にも言ったけど、俺っちは帝国軍の百人隊長。
そんなヤツを匿うなんて、同胞に対する裏切りってもんだ。
事がおおっぴらになったらどうなるか、簡単に想像がつく。
俺っちが解放軍に処刑されれば、アラギリは戦いを選ぶ。
だからってこのままじゃ、いずれバレて大騒ぎだ。
どっちにしても、愉快なことにゃならねェだろうな。
幸い、解放軍でこのことを知ってるのは、ブレイゼン殿だけ。
彼が情報を押さえてくれてるおかげで、
いまなら帳尻を合わせられる。
妙な依頼だってのは、わかってる。
俺っちが投降して処刑されても、騒ぎを起こさないよう、
アラギリのみんなを説得するのに、手ェ貸してくれ！

おお、みんなの説得を手伝ってくれるってのか、冒険者！
ありがてェ、恩に着るぜ！
さて、どうやって説得するかなんだが……
そもそも、俺っちはどうしてあんなに慕われてるんだ？
……自分で言ってて、恥ずかしいなァ、これ！
ともかく、原因を調べなきゃ、対処は不可能だ。
俺っちの方でも聞いてみるから、
アンタも、慕われる理由をみんなから聞いてみてくれ。

自分で言うのは、かなり恥ずかしいんだが、
俺っちが慕われている理由を、みんなから聞いてみてくれ。
恥ずかしいの我慢して、俺っちの方でも聞いてみるからよ。

おお、戻ったか冒険者！
どうよどうよ、説得の材料になりそうな話は聞けたか？
オイオイオイ、みんな買いかぶり過ぎだって……。
俺っちは、ただ自分の身勝手で、
アラギリのみんなが傷つくのを、見たくなかっただけだ。
帝国の属州統治ってのは、総督の方針で大きく変わる。
属州人が暮らしやすい場所もあれば、
死んだ方がマシって場所もある……俺っちは後者の出身でね。
そんな属州で人として生きたければ、軍に入るしかない。
20年間の兵役を耐え抜けば、市民権を得られて、
家族にも、まともな生活をさせてやれる……。
だから俺っちは、軍に入ることにした。
ひたすら戦って、戦って、戦って……。
おかげで気がついたら、百人隊長になってたよ。
でも、遅かった。
家族の訃報が届いたのは、百人隊長に昇進した直後さ。
みんな、流行病で死んだって……紙切れ一枚だけだった……。
その後くらいからか、
アラギリの住民が、死んだ家族と重なってね。
どうにも、苦境を見過ごすことができなかった。
……どうだい、情けないにも程があるだろ？
だいたい、帝国兵としてアラミゴ人を殺したこともあるのに、
そんな奴のことを感謝してるだなんて、ちょっと呑気すぎだっての！
まあでも、俺っちが聞いた話も同じような内容だったし、
これで原因はハッキリしたみてェだな！
ありがとよ、助かったぜ冒険者！

さて、俺っちを慕ってくれてる理由がハッキリわかったんだ。
俺っちを見捨てるよう説得する方法もバッチリってなもんさ。
みんなが失望するよう仕向けりゃいい！
そうだな……冒険者にこの指輪を預ける。
コイツは、家族がお守り代わりにくれたものでね。
唯一残った思い出の品さ。
俺っちが「故郷と家族を捨て、のうのうと生きる卑怯者」だと、
その「形見の指輪」を証拠代わりに見せつつ、
みんなに広めてくれないか？
そうすれば、俺っちの評判はガタ落ち。
苦労して匿う気も失せるって寸法さ！
あっ、でも、恩人の陰口を叩く卑怯者だとかで、
冒険者の評判が悪くなりそうだな、これ。
……よし、まずは「ジャ・ヤーラニ」にやってみて、
どういう反応になるか、確かめてみてくれ。
最悪、種明かししてもいいからさ、頼んだぜ。

「ジャ・ヤーラニ」に試して、反応を確かめてくれ。
彼女なら、そう悪い方向にはいかないと思うんだ。
最悪の場合でも、種明かしで納得してくれるはずさ……多分ね。

お疲れさん、冒険者。
ひとまず「形見の指輪」を返してもらいつつ、
首尾について、聞かせてもらえねェか？

……そうか……今……今、ねェ。
俺っちの「今」なんて、どこにあるんだ……。
家族も死んで、独りになっちまったのに……。
悪ィ、つまらねェ泣き言を聞かせちまった。
ともかく、この方向での説得は難しいか。
なんか別の手ェ、考えないとな。
とは言っても、時間が無限にあるわけじゃねェし、
のんびり考えてたら、俺っちを匿ってることがバレちまう。
くそっ、どうしたものか……
……冒険者、すまねェがもう一度だけ、
「ジャ・ヤーラニ」を説得してみてくれ。
その間に、俺っちは別の案を考えておくからよ。

難しいたァ思うが、もう一度だけ、
「ジャ・ヤーラニ」を説得してみてくれ。
その間に、俺っちは別の案を考えておくよ。

……ガイウス閣下を討ち取った冒険者は、伊達じゃねェか。
これから死のうってのに、助けてもらって礼を言うのも、
なんだか変な話だが、ともかくありがとよ。

お、おう……そっちも無事そうでよかった。
えーっとだな、それで……。
お前ら、なんでここに来た？

そうか……処刑されることはないだろう、か……。
解放軍もずいぶんと甘ちゃんだな。
俺っちの命だって、人気取りに使えるだろうに。

謝る必要はねェよ。
正直、解放軍の意向なんて関係ないんだ。
俺っちが死にたかった、それだけなんだからさ。

家族のために手を汚してきた俺っちだから、
家族が死んで、「今」のない空っぽになった。
それでも、部下や任務のために生きてきたが、もう用済みだ。

それは……。

なっ！？

……ったく、生きる意味になりたいとか、家族にしてくれとか、
まるで求婚してるみたいじゃないか。

それじゃあ、アラギリに帰って、解放軍に投降するか！
その後どうするかなんて、まったく考えてねェけど、
一緒に考えてくれるだろ？

冒険者、手間ァかけちまったな。
「ブレイゼン」殿には、そっちからも報告、頼むわ。
……ありがとよ。

おう、冒険者。
元気にしていたか？

へへっ、ブレイゼン殿のおかげで、あっさり釈放だ。
まあ、監視つきではあるけどな。
いまはウェイドヘリさんの酒場で、厄介になってるよ。
いやしかし、ここでアンタに会えたのは運がいい。
ちょいとした問題が起きていてな、
旅慣れてるヤツの話を聞きたかったんだ。

このあたりの特産にアラックって蒸留酒があるんだが、
ソイツの原料の入手が難しくなっててな。
どうにか調達できねェかと、調べてるところなんだ。
帝国の占領下では、兵の慰問に必要だってんで、
ギラバニアの外から調達できるようになっていたんだが、
当然ながら、支配から解放されて、それが途切れやがった。
もちろん、占領前に調達していた生産地はあるが……。
解放軍に確認したら、どこもひどい状態だってよ。
まとまった量を手に入れるのは、難しいだろうな。
まあ、すぐにアラックが作れねェって話じゃない。
とはいえ、東方交易路が再び開かれるかもって考えると、
宿場街に特産品がねェってのは、見過ごせない。

なあ、冒険者よ。
アラックの原料になるデーツを、
栽培してるところを知らないか？

それなら、俺っちが手伝いに行くってことでどうだ？
いや、手が足りないなら、いっそ共同事業にする方がいいか？
アラギリにとっても一大事だし、みんな賛成してくれるはずだが……。
まずは実際の状態を見ないと、始まらねェな。
なあに、そう悪いようにはしないからさ、
ベレータさん、コールドハースに連れて行ってくれねェか？

冒険者、この人は俺っちが責任を持って、
コールドハースへ送っていくから、安心してくれ。
アンタがいてくれて、助かったぜ……じゃあな。